藤井隆行 × 清永浩文
Talk about... “Sophnative”

Photographs : Akio Yamakawa
Interview&Text : Tokiko Nitta

 我々の暮らしが大きく制約された2020年。自宅で過ごす時間が圧倒的に増え、それに伴って生活圏内で楽しむ術を見いだす人がとても多くなった。 新たな世界のルールがようやく日常となりつつある2021年、〈SOPH.〉と〈nonnative〉の次なるコラボレーションは、新しい時代に寄り添うホームアイテムだ。 普段の生活の延長線からこぼれ出たアイデアが、ひとつの物語として紡がれていく。一家に一台あると有能なステップから、ブレイクタイムに欲しいコーヒーへと話が広がり、 そこに付随するマグカップやホームウェアなど、〈SOPH.〉代表・清永浩文の暮らしにまつわる実用品を〈nonnative〉デザイナー・藤井隆行が、共に形にしていく。今回はその時系列を追ってみることにした。

—まずは、今回のコラボレーションのひとつ「2-step」の製作経緯を教えてください。

藤井:昨年末、キヨさんの家にお邪魔したとき、濃いブラウンの床を見て「〈SOPH.〉と〈lucano〉が以前コラボした2-stepって、この床の色に合わせたんだ」と気づいて。 で、呑みながら「僕の家の床には合わないんですよね」って話になり、薄い色が欲しいんですよ。と。至極、個人的な話から始まりました。

清永:そうそう。で、「じゃあ、やるか」となって。この脚立が思いのほか、前回(2020年8月第1弾をリリース)とても好評でね。お店のお客さん、業界仲間、友人達から「これなら自宅に置ける」と言ってもらえて。

藤井:うちも買いましたから(笑)。

清永:脚立って何気に一家に1台は必要でしょ。電球交換したり、棚の上のもの取ったり。 それを納戸にわざわざしまうのではなく、リビングに置いてもサマになるものが欲しかったんです。

藤井:キヨさん、自宅にいるとき、よくこの脚立に座っていますもんね。

清永:そう、お客さんはリビングのイスに座ってもらうけど、なぜか家主はこれに座って飲んでいるという……。 ここに座ってギターを弾く友人もいる(笑)。

藤井:で、脚立を製作するなら、自粛期間というのもあったし、家にまつわるアイテムも関連させて作れたらと思って。

清永:僕がそのとき、ちょうどコーヒーにハマっていてね。家から出られない時期だったから、 これを機にコーヒーを勉強しようと思って、いろいろ試していたんです。 凝り性なのでいろんなギアを買って、自分でドリップしていました。

藤井:うちも〈SIDEWALK STAND〉でコーヒーを手がけているので、そこの豆をキヨさんに送ったりして。 そういった背景もあって、脚立だけじゃなくコーヒーも出しましょうという話になったんです。 今回リリースする豆も店で扱うブレンドから少し味を変えて、コラボ専用にしました。 キヨさんが酸味の少ない苦味のあるものが好きなので、チョコ、ダークチェリー、アーモンドをブレンドして後味がやや甘めになる配合にして。

清永:確かに、後から少し甘さが出るよね。僕はサードウェーブ系のおしゃれコーヒーより、日本的なザ・コーヒーが好きだから。喫茶店で出るような(笑)。 そこも上手く取り入れてもらえた。で、コーヒーを出すならマグも必要だよな、と。そうしたら、飲むときはやっぱりスウェットだろ、と話が広がって。

藤井:家でコーヒーを飲むときって、リラックスした格好でいたいですもんね。

清永:上下スウェットでもいいし、上はTシャツで下はスウェットでもいい。 とにかく、堅苦しい格好はしたくない。でも、近所にはそのまま出かけたいって気持ちもある。 宅急便が来たらわざわざ着替えないで受け取りたいしね。そうして、コーヒーからどんどん派生して今回のホームウェアもできた。

藤井:そのウェアもコーヒーで染めようという話になったんです。 しかも、うちのコーヒースタンドから出たカスでやろうってなったから大変でした。 毎日店舗のコーヒーのカスを集めて大阪の工場まで運んで(笑)。 さらに、コーヒーで生地を染めても刺繍は白で残したいというこだわりがあったので、 染色後の生地をまた刺繍にまわして、という工程を踏んで。めちゃくちゃ手間がかかりましたね。

清永:あと、細かい部分だけど、自分が寝るときに首のうしろにタグが当たるのがイヤだから、ロゴはプリントにしてもらったりね。




−マグカップには何かこだわりがあるんですか?

清永:僕がマグカップ好きなんですよ。自宅にいくつあるのか分からないほど。 今でこそ海外出張はないけど、以前は年4〜5回はあったから、滞在先に着いたら街をまず散策するんですよ、マグカップを探して。

藤井:マグカップを探して? おもしろいですね。

清永:土産物屋とか雑貨屋とかでね。で、出張には小さなケトルも持参しているから、 ホテルでコーヒーを淹れて、そのマグで飲むわけ。 いつもマグを買うのが旅先での最初の買い物。すると、自宅にどんどん増えていく。

藤井:今回のマグで言うと、長崎の波佐見焼きなんですが、釉薬にイエローベージュが入っているんです。 マグの見た目は薄いオリーブっぽいんですけど。こういう色がブラウンのマグの他にあると、女性がいる家でも使いやすいと思います。 スタッキングできるから買い足して重ねていけるし。他の既製品も上に乗せられます。

清永:で、今回そのマグと一緒にリリースする小物入れは、実はコーヒーのカスを入れるのにも使える。 玄関に置いてカギを入れてもいいし。灰皿としても勿論使えるけど、他にもいろいろ用途があると思います。




−共作のお話を伺っていると、お互いが阿吽の呼吸というか、仲の良さが伝わってくる気がします。

清永:確かに。お互い「う〜ん?」と躊躇する部分がないから話が早い。

藤井:誰とするかって大事ですよね。うちと〈SOPH.〉のユーザーって結構かぶっているんですよ。 卸先も同じだし。だから、そこのお客さんに向けてやっている部分は大きいですね。 僕はコラボって“相手がここだから一緒にやりたい”という感覚が強いんです。 売れるためだけに適当にやっていると、ユーザーにも伝わるはずだから。自分たちが楽しんでやる感覚が重要というか。

清永:あと、コラボってある意味、負けを認めるってことだと思うんです。自分たちだけではできないことも、相手と一緒ならできる。負けを認めて、それを向こうに託す。 例えば〈コンバース〉があって、それと似たものは自社でも作れるけど、自分だって本物を履いているんだから、それならちゃんとお願いした方がいい。

藤井:昨年〈GU〉と〈SOPH.〉がコラボしたときもそうですよね。餅は餅屋というか。

清永:そう。〈SOPH.〉の価格帯は手が出ないという人も〈GU〉とのコラボアイテムなら購入できる人がいる。 メーカーがホームウェアをやると4000〜5000円台になるところも〈GU〉とコラボすることで、Tシャツが1000円くらいで提供できたりね。

藤井:すごいですよね、その価格差は。僕はコラボするとき、その物に対して原稿が2000ワードくらい書けるものにしたいというのがあるんですよ。 大勢を巻き込むのが共作なんだから、それくらい文章が書ける、というか、中身のあるものでないとやりたくない気持ちが強いです。

清永:なるほどね。自分は基本めんどくさがりなので、すぐ「いいよ」と言える相手を選ぶところがあるかな。 お互いこだわりだしたら、個々に自分たちでやった方がいいんだし。互いに「コレじゃないと嫌」が多いと、終わりがない。

藤井:今回のコラボも計画的ではなく、呑みの話で発展していったものですしね。毎回そうですけど、そういったタイミングってあると思います。

清永:確かにね。時の流れに身を任せる部分はある。あと、何かコラボするときは、自分が実生活で使っていることが大前提。

藤井:アートにしてもそうですよね、〈SOPHNET.〉からリリースした村上隆さんのアイテムも。キヨさんの家に村上さんの作品がありましたもんね。

清永:そう、何に関しても自分で使って気に入ったものしか共作のノックはしない。好きっていう原動力が大切。 好きな相手に対しても同じかな。自然とアピールしているってことですね、結ばれたいときは。言葉も態度も有言実行。

藤井:キヨさん、言霊の力がすごそう(笑)。次回のコラボも不定期ですが、こういう感覚でやっていきたいです。


藤井 隆行 - Takayuki Fujii
1976年生まれ。奈良県出身。武蔵野美術大学 空間演出デザイン学部を中退後、セレクトショップで経験を積み、2001年より〈nonnative〉デザイナーに就任。以来、独創的で洗練されたモノづくりを展開、〈nonnative〉の世界観を確立してきた。
https://nonnative.com

清永 浩文 - Hirofumi Kiyonaga
1967年生まれ。大分県出身。 1998年〈SOPH.〉を(2002年にSOPHNET.へ改名)、翌1999年に〈F.C.Real Bristol〉を立ち上げる。2008年には〈uniform experiment〉をスタートするなどチャレンジングな戦略でシーンを牽引。また、自身の名を冠した「KIYONAGA&CO.」の実店舗を2017年4月から2019年4月の2年間、福岡市・赤坂にて展開。2020年11月よりオンラインストアへと場を移し再スタート。
https://www.soph.net
https://kiyonagaandco.com